初めての「うまい棒」から「本物の銀行口座」へ―FPの母が伝えた、挫折させない「諸損」の教えと小1からの資産管理術―
「お金の教育」と聞くと、多くの親御さんは「貯金」や「節約」をイメージされるかもしれません。しかし、私が未就学のわが子にまず教えたのは「上手な使い方」でした。
お金のプロであるFPとして、そして一人の母として、わが家で実践している「お小遣いという名の、自走力を育むトレーニング」の軌跡をご紹介します。
もしお子さまとこの記事の年齢が違っていても、大切なのは「ステップ」です。読者の皆様のご参考になれば幸いです。
エピソード0:3歳、本物の革財布を握りしめて
わが家のお金教育のスタートは、長男が3歳の時でした。 そこで用意したのは、おもちゃのサイフではなく、本物の革製の小銭入れです。 まだ小さな子どもの手には、一般的なお財布よりも小銭入れのサイズ感がちょうどいい。そして何より、「いつか大人になっても、本来の用途である小銭入れとして、長く使い続けてもらえたら」という願いを込めました。 良いものを手入れしながら長く使う。お金そのものだけでなく、その背景にある「物の価値」も一緒に手渡したかったのです。
レジで緊張して手を震わせながら、一生懸命に小銭を選び出す3歳の背中。自分で手に入れた「うまい棒」を大事そうに抱える姿を見たとき、これが彼の経済的自立への長い旅の始まりなんだと、私自身も身が引き締まる思いでした。これが、わが家の「原始体験」です。
「使い方」を3つの色で定義する
成長に伴い、お小遣い制度を本格化させるにあたって、私はまず「お金の行き先」には3つの名前があることを教えました。
- 投資:自分の知識や経験になり、将来の自分を助けてくれるもの。
- 消費:衣食住など生活に不可欠なもの。または、今の心を豊かにしてくれるもの。
- 浪費:買ったあとに後悔するような、無駄な使い方。
ここで重要なのは、親子の役割分担を明確にすることです。 わが家では、「投資」と「生活に必要な消費」は親の担当と決めています。「将来のために学びたい、知りたいという意欲は、親が全力で応援するから心配しなくていいよ」というメッセージを込めています。
対して、お小遣いは「何が自分の心を豊かにしてくれる買い物(消費)か」を練習するための資金です。
例えば、息子が料理の本を欲しがったとき。 「中身を知りたいだけ」なら検索すれば済みますが、彼は「自分専用の本として手元に置き、一人で料理に挑戦したい」と言いました。これは立派な「自分への投資」です。この時は貯めていた図書カードを使って買うことにしました。
「単なる物欲」なのか「自己実現のためのツール」なのか。対話を通じてここを切り分けることで、子ども自身の中に「価値の基準」が育っていくのです。
年長時代の「年6000円」お家銀行トレーニング
「本物の銀行」にデビューする前の1年間、年長時代の長男が挑んだのが、「年6000円」を原資としたお家銀行でのトレーニングでした。
お年玉の中から6000円を「年間予算」として切り出し、それを12ヶ月で割った「月々500円」が彼の自由にできる全財産です。この期間の目的は、「限られたリソースで、1ヶ月という見通しを立てる力を養うこと」にありました。
記録には、100円ショップでも手に入る「通帳デザインのお小遣い帳」を使いました。銀行員が通帳に印字するように、自分の手でお金が増えたり減ったりする様子を記録する。この「視覚的な管理」が、貯める楽しさへのステップアップに繋がります。
しかし、ここで最初の壁にぶつかります。未就学児に正確な帳簿付けは難しく、どうしても実際の残高と数字が合わなくなるのです。
「数字が合わないからもうやりたくない」 そんな息子の挫折を救ったのは、FPとしての私の「割り切り」でした。
「合わなくても大丈夫。これは『諸損(しょそん)』といって、原因不明のズレを調整する項目だよ」
正確さを求めるあまり「お金を意識すること」自体が嫌いになっては本末転倒です。計算のミスには片目をつぶり、諸損で帳尻を合わせてあげる大らかさが子どもの自走を邪魔しないための秘訣でした。初めから完璧である必要はありません。
親の「一貫性」と、戦略としての「祖父母ルート」
お小遣い教育で最も忍耐が必要なのは、子どもが「浪費」をしたときです。 親から見れば「二度と触っていないお菓子のおまけ」でも、本人は「後悔なし」と言い切ります。友達との共通の話題になった「ポケモンカード」などは、立派な生きた消費です。
たとえ「すぐ飽きそうだな」と思っても、本人が選んだならグッと堪えて見守る。そして、もし予算を使い切ってしまっても、親は絶対に補填しません。ここで甘やかしては、予算の概念が崩れてしまうからです。
ただし、どうしてもという時の「救済策」は用意しています。それは、祖父母という「外部資本」です。
親は常に「ルールを守る一貫した存在」であり続け、祖父母には「困った時のセーフティネット」としての役割を担ってもらう。この役割分担が、親子の信頼関係を守りつつ、社会の厳しさと温かさを同時に教えることになると考えています。
小1のステップアップ:本物の銀行への預け入れ
1年間のトレーニングを経て、この春に小学1年生になった長男は、さらなるステップへ進みました。 今年の1月、彼がいただいたお年玉は約3万円。彼は自ら、次のような「資産の切り分け」を行いました。
昨年の実績から、お小遣いとしての「運用資金」に1万円(月々約800円)。そして、残りの2万円を自分の名前の本物の銀行口座へ預け入れに行ったのです。
お小遣い帳の数字が、本物の通帳に刻まれる。 これまで培ってきた「今使う分」の管理に加え、「将来のために守り、増やす分」という中長期的な資産管理の意識が、彼の中に芽生え始めました。
本物の銀行の通帳を手に「これは将来、もっと大きなものを買う時に使うんだ」と誇らしげに語る彼の姿に、3歳の時にうまい棒を買っていたあの日の面影が重なります。
結びに:次なるバトンを妹へ
そして今、わが家では新たな物語が始まろうとしています。 3歳になった妹が、あの日のお兄ちゃんと同じように、革のお財布を手に「原始体験」への準備を整えています。
彼女のお財布には、お兄ちゃんの時の経験を活かし、可愛さと実用性を兼ねた「ベルトフック付きのキーホルダー」を付けました。落とさないための対策も、準備万端です。

お小遣いとは、単なる「お買い物のお金」ではありません。 それは、「自分にとっての幸せとは何か」を試行錯誤し、自分の足で人生を歩むためのトレーニングです。
親として、プロとして。 これからも、子どもたちの「通帳」に刻まれる経験の一歩一歩を、温かく、そして時には厳しく見守っていきたいと思います。
